任意の解散は憲法違反か?2017年09月29日 17:02

解散直後の万歳
総理大臣の「任意の(政局要因による)」衆議院解散権は憲法違反ではないかという議論をしたいと思う。
法学界の主流は、憲法第七条三号(天皇の国事行為)にある解散は、内閣の助言・決定に基づいてなされるので、事実上内閣総理大臣には任意の時期に解散をする権限があるとするものであるといえる(国会で衆議院議長が読み上げる「詔書」は、つねに憲法第七条により解散すると書いてある)。

それに対し、総理大臣による衆議院の解散は、第六十九条にある「不信任の可決あるいは信任の否決」しか明文の事由がないので、それ以外の解散はできないとする意見もある。
しかしこれは現在では少数意見であり、第七条三号の解散理由は第六十九条に縛られないというのが、実際の解散事実の積み重ねによって既成事実化されている。
第六十九条以外の解散権の行使は憲法違反で無効だという主張は、過去裁判になったことがあるが「高度な政治行為に司法判断はなじまない(統治行為論)」として退けられている。

<参考;苫米地事件>Wikipediaより引用
解散で衆議院議員の地位を失った苫米地義三は解散の無効を主張し歳費請求訴訟を提起したが、その上告審において最高裁判所は、いわゆる統治行為論を採用し、高度に政治性のある国家行為については法律上の判断が可能であっても裁判所の審査権の外にあり、その判断は政治部門や国民の判断に委ねられるとして、違憲審査をせずに上告を棄却した。

このような現実があることを踏まえた上で、もう一度憲法の想定する国家の権力構造という点から考えてみたい。

憲法上日本の主権者は国民である。
憲法前文には「こに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。」とある。そしてすぐあとに主権の具体的な行使として「その権力は国民の代表者がこれを行使し」と書かれ、
第四十一条  国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。
に引き継がれて具体化される。
つまり、国会を上回る権力は憲法上存在しない。その根拠は、主権者の意思の表明として直接選挙によって選ばれているところに求められる。
一方、行政の長である内閣総理大臣は国会の多数決で選ばれる。代表者の中での互選なので、主権者の国民からは「間接」である。国民への責任と言うより国会に責任を持っている。
この制度を「議院内閣制」と呼ぶことは、社会科で習っているはずだ。
この制度のいいところは、国会と内閣(立法府と行政府)が深刻な対立をせず、スムースに国政が遂行されるところだ。
とはいっても内閣と国会与党が対立するかも知れない。
そのときのために第5章「内閣」には次の条文がある。
第六十九条  内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない。

国会が総理大臣以下内閣を「全員クビにしてやる!(内閣不信任議決)」と言うことができる。それが理不尽だと思えば、今度は総理大臣が「お前たち衆議院議員こそ全員クビだ!(=解散)」といって、対立のリセットができると定められている。
国会が選んだ総理大臣だからこそ、先に内閣不信任を突きつけることができ、そしてその対抗策として初めて「解散権」が発動できる。
不信任(信任の否決)が先で解散が後、この順序は不可逆であることは、国会を「国権の最高機関」と定める憲法上は当然といえる。
「天皇の国事行為」を定めた憲法七条三号は、二号の「国会を召集すること」のバランス上「解散」をおいたものとみることが妥当で、それ以上でも以下でもないだろう。内閣や内閣総理大臣の権能とは関係がない。
総理大臣は、議院内閣制をとる限り国会に従属しなければならない。もしも、総理大臣が任意に衆議院を解散できるとなれば、「国権の最高機関」を上回る「超権力」となってしまう。
これは憲法の予定する権力構造(ヒエラルキー)とは異質と言わねばならない。
いくら第七条の法解釈上「合憲」であっても、総理大臣の「大権」としての任意解散権の容認は、他国の領土領海等で大規模な武力行使を自衛隊に容認するのと同じ程度には、憲法の「基本構造」に違反するのではないかと思う。

追伸;首相公選制は上記問題を解決しない。

首相公選制は、天皇がいるため「大統領制(=元首)」を敷けない日本ならではの方便だと思う。
全有権者の選挙によって選ばれた「首相」は主権行使の代表者で国会と対等となる。その権限は現行憲法を換骨奪胎するような、国家権力体制の抜本的な転換である。
当然のように首相が属する政党は、国会内の少数派であることもあり、「衆参ねじれ国会」以上に政策の実行には困難が伴う。不信任議決が多発することもあり得る。
また過去、名古屋市で現市長が行ったように、自身の政策公約実施のために「解散権(実際には、市長の解散権には制限があるのでリコール制度を使った)」を使うこともあり、首相派と議会派の深刻な対立を生むかも知れない。
地方自治法のように総理大臣と国会の具体的な牽制関係も規定しなければならないだろう。
単に首相を有権者の投票で選ぶだけでは済まされない、大幅な現状変更が必要で、必ず憲法を改正しなくてはならない。
公選首相と天皇の関係も微妙となる。どちらが「日本の顔」なのか。
どっちでもよいというのは多分共産党だけだろう。

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