自衛隊は憲法解釈という砂上の楼閣にいる2016年02月25日 17:22

陸海空自衛隊20万人の軍事的能力は世界の中でも上位だそうである。
しかし、憲法第九条によって「陸海空の戦力はこれを保持しない」となっているので、国内的には日本国政府は「防衛力」をもっていて戦力は持っていない、「防衛装備」をもっているのであって武器・兵器は持っていないと言い換える。
このような不自然は「言い換え」の源泉は、自衛隊が憲法第九条とどんな関係にあるのかという「どろどろした」経過にある。
日本国憲法第九条は2つの項からなるシンプルな条文である。

第九条  日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
 2  前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
 
 一つの条文だが、章として独立していて「第二章 戦争の放棄」と題されているから、戦争に対する強い禁忌があるとみるべきだろう。
この第二章・第九条は、「前文」にある「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し」を受けて設けられたと考えるのが文章の解釈としてはごく自然であろうと思われる。
少なくとも高校生~大学入試の国語レベルでは、正しいとされる。
つまり、自衛隊の存在は憲法第九条とは相容れない矛盾であるとする「自衛隊違憲論」は強い説得力を持つ。

政府も自衛隊創設以前1946(昭和21)年の吉田首相などは次のような見解を表明している。
「戦争放棄二関スル本案ノ規定ハ、直接ニハ自衛権ヲ否定ハシテ居リマセヌガ、第9条第2項二於テ一切ノ軍備ト国ノ交戦権ヲ認メナイ結果、自衛権ノ発動トソテノ戦争モ、又交戦権モ放棄シタモノデアリマス。
従来近年ノ戦争ハ多ク自衛権ノ名二於テ戦ハレタノデアリマス。
…故ニ我ガ国於テハ如何ナル名儀ヲ以テシテモ交戦権ハ先ヅ第一自ラ進ンデ放棄スル。
…世界ノ平和確立ニ貢献スル決意ヲ先ヅ比ノ憲法二於テ表明シタイト思フノデアリマス。
(引用元;http://tamutamu2011.kuronowish.com/kyuujyouhanketuitirann.htm )

ところが、自衛隊が発足し、防衛庁が設置される過程で政府は憲法の解釈を変更するに至る。

1979(昭和54)年(大村防衛庁長官)

政府の見解をあらためて申し述べます。
第1に、憲法は自衛権を否定していない。自衛権は国が独立国である以上、その国が当然に保有する権利である。……
第2.憲法は戦争を放棄したか、自衛のための抗争は放棄していない。
1.戦争と武力の威嚇、武力の行使が放棄されるのは、「国際紛争を解決する手段としては」ということである。
2.他国から武力攻撃があった場合に、武力攻撃そのものを阻止することは、自己防衛そのものであって、国際紛争を解決することとは本質が違う。従って自国に対して武力攻撃が加えられた場台に、国土を防衛する手段として武力を行使することは、憲法に違反しない。
(引用元は上記と同じ)

ここで、法文解釈のマジックとも言うべき方法がとられている。
条文を、句読点で区切られるセンテンスで個別に解釈するのである。すなわち第1項を「国権の発動たる戦争と」「武力による威嚇又は武力の行使は」「国際紛争を解決する手段としては」に分解する。
第2項も「前項の目的を達するため」「陸海空軍の戦力はこれを保持しない」「国の交戦権はこれを認めない」と分解する。
次ぎに、分解されたそれぞれのセンテンスを個別に解釈する。すると、条文全体で意味していることを離れて自由度が増す。
第一項は次のようになる。
「国権の発動たる戦争」=宣戦布告を行った国際法上の国家同士の戦争と解釈する。
「武力による威嚇又は武力の行使」=宣戦布告なき武力衝突又は戦闘行為。
「国際紛争を解決する手段」=外交や国際政治上のお互いに相容れない主張を解消できない場合の手段。つまり武力で相手国を攻撃又は威嚇することで当該紛争を解決する、ほぼ侵略戦争と同じ意味。
続いて第二項、
「前項の目的を達するため」=宣戦布告を伴う国家間の戦争や、外交・政治問題を解決する手段としての戦争をしないという目的。この文章が次のセンテンスに係るとする。元総理大臣であった芦田均が退任後かなり後に言いだした解釈と同じであるので「芦田修正」と呼ばれることもある。
「陸海空軍の戦力はこれを保持しない」=上記目的、国家間の戦争や交渉で解決できない問題に対する手段としての戦力は保持しない。
「国の交戦権はこれを認めない」=交戦権は国際法上明確でないとする記述がWikiにある。その記述に拠れば「交戦状態にある国=戦時国際法が適用される状態にある場合の権利」というのが国際法上の意味合いであって、「国が戦争をする権利」という憲法前文や九条全体から受ける意味合い定義はないという。

以上ようなセンテンスごとの解釈をつなげると、政治外交などの手段で解決できない他国とのお互い相容れない紛争をその国に武力を行使したり威嚇したりするための戦力保持やその延長にある戦争はしない、となる。

この解釈の中に、他国から理不尽に日本が武力攻撃を受けたとき、つまり喧嘩を売られたとき、応戦する正当防衛の権利=自衛権は禁止されておらず、「その目的(国際紛争を解決するという目的ではない)」のために、陸海空の戦力を持つこと、つまり自衛隊とその運用としての自国防衛戦闘(自衛権)は禁止されてはない。
世界屈指の装備と戦闘能力を持つ自衛隊が堂々と、「戦争放棄」という憲法の下で存在できる理由づけはこのように為される。

現在の政府見解(防衛省のサイトより;http://www.mod.go.jp/j/approach/agenda/seisaku/kihon02.html )
>>防衛省見解。

わが国は、第二次世界大戦後、再び戦争の惨禍を繰り返すことのないよう決意し、平和国家の建設を目指して努力を重ねてきました。恒久の平和は、日本国民の念願です。この平和主義の理想を掲げる日本国憲法は、第9条に戦争放棄、戦力不保持、交戦権の否認に関する規定を置いています。もとより、わが国が独立国である以上、この規定は、主権国家としての固有の自衛権を否定するものではありません。政府は、このようにわが国の自衛権が否定されない以上、その行使を裏づける自衛のための必要最小限度の実力を保持することは、憲法上認められると解しています。このような考えに立ち、わが国は、憲法のもと、専守防衛をわが国の防衛の基本的な方針として実力組織としての自衛隊を保持し、その整備を推進し、運用を図ってきています。

(1)保持できる自衛力
 わが国が憲法上保持できる自衛力は、自衛のための必要最小限度のものでなければならないと考えています。その具体的な限度は、その時々の国際情勢、軍事技術の水準その他の諸条件により変わり得る相対的な面があり、毎年度の予算などの審議を通じて国民の代表者である国会において判断されます。憲法第9条第2項で保持が禁止されている「戦力」にあたるか否かは、わが国が保持する全体の実力についての問題であって、自衛隊の個々の兵器の保有の可否は、それを保有することで、わが国の保持する実力の全体がこの限度を超えることとなるか否かにより決められます。
 しかし、個々の兵器のうちでも、性能上専ら相手国国土の壊滅的な破壊のためにのみ用いられる、いわゆる攻撃的兵器を保有することは、直ちに自衛のための必要最小限度の範囲を超えることとなるため、いかなる場合にも許されません。たとえば、大陸間弾道ミサイル(ICBM:Intercontinental Ballistic Missile)、長距離戦略爆撃機、攻撃型空母の保有は許されないと考えています。<<

しかし、中高校生レベルで理解される日本語が「専門家」によって正解とされないというのは、自衛隊の存在が「戦争放棄」をうたう日本国憲法に合致すると国民的に合意されるものではなく、時の政権・政治による恣意が働いてしまうと考えられる。
政権が変われば、自衛隊が「憲法違反」とされることもあり、陸海空20万人の自衛官の地位や雇用、装備の存廃も含め、不安定な存在であることになる。

それゆえ憲法改正「私案」では、次のように改正することを提案している。
第二章「戦争の放棄」は章名を「戦争の放棄と自衛権」に変更
第九条  日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
 2 前項の規定にかかわらず、自国防衛のための自衛権に基づく軍事力はこれを保持する。
 3 日本国と第3国との間の双務軍事同盟および集団的自衛権はこれを認めない。
 4 国の徴兵権はこれを認めない。
 
第九条の二 前条第2項の自衛権は陸上、海上、航空自衛軍により行使される。
第九条の三 自衛権の行使は日本の領土、領海、領空および国際条約上で認められた排他的水域で他国による攻撃があった場合に認められる。
 2 自衛権による武力行使は、自衛のための最小限とし、他国の領土領海領空では行わない。
第九条の四 前条のほか、国際連合と当事国政府の合意のもとで、他国と共同で平和維持活動に自衛軍を派遣することができる。
 2 派遣中の自衛軍に対する攻撃があった場合の武力行使は、第九条の三にかかわらず、自衛権の行使とする。
第九条の五 平和維持活動中は、捕虜の扱いに関する国際条約における軍の規定を適用する。
 2 平和維持活動中の自衛権の行使による他国民の殺傷について派遣自衛軍において軍事裁判を行うことができる。
 3 軍事裁判の刑罰及び手続きは法律で定める。ただし刑罰に死刑を設けることができない。
 4 軍事裁判の判決に不服のあるものは帰国後通常の裁判を起こすことを妨げない。

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